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核戦争の負の遺産がコロナで高騰!?

ラリー・ホールさんは妻と15歳の息子、2匹の犬と1匹の猫とともにカンザス州グラスコの地下シェルターで過ごしている。2週間前、コロラド州デンバー郊外にある自宅から避難してきた。

ホールさん一家の住まいは、深さ約53メートルに広がる高級シェルター集合住宅「サバイバル・コンド」の一区画だ。不動産開発を手がけるホールさんは米軍の元ミサイル格納施設の内部に居住スペースを建設。15階建ての地下構造物の中に14区画が設けられ、ホールさんが住む部屋と同じ約85平方メートルの区画は販売価格150万ドル、フロア全部を占める約170平方メートルの区画は300万ドルだ。ホールさんによると残りは5区画のみだという。

最近まで、米カリフォルニア州北部に住むジョーさん、ジェニファーさん夫妻の脳裏をよぎっていたのは、全長15メートルの強化構造シェルターを敷地内の深さ3メートルに埋め込んだのは間違いかもしれないという考えだった。

ところが新型コロナウイルスの急速な感染拡大が起き、米国中が次第にパニック状態となった。トイレットペーパーが店頭から消え、銃の売り上げは急増。新型ウイルスの世界的大流行(パンデミック)によって日常生活に大きな支障が生じ、前例のない不透明感に覆われている。

「4カ月前、妻と私は『なぜあんなことをしたのか。ばかげている』という気持ちだった」と夫のジョーさん(42)。「だが今の気持ちはこうだ。『すごい。本当に役に立った』」。場所を特定されないため、夫妻は姓を明かさなかった。




サウスダコタ州の「ビボス・エックスポイント」には、生い茂る草の下に575カ所のコンクリート製要塞(ようさい)がある





夫妻と4歳、8歳、12歳の3人の子どもたちは2週間近く、最小限の家具を備えた長方形のシェルターで過ごしている。2年半前に購入した際の費用は24万ドル(現在のレートで約2660万円)。当時は2016年の大統領選後に広がった社会の分断がいつか市民の暴動を招くことを危惧していた。

「正直言ってこんな目的で使うとは思わなかった」。

厚さ30センチの鉄筋コンクリートに覆われた鋼鉄製の構造物についてジョーさんはこう話す。近くで核爆発が起きても耐えうるという触れ込みで、また空気ろ過装置を備えており、生物学的・化学的な有毒ガスを遮る一方、外部から酸素を取り入れることが可能だとされている。1950年代から60年代にかけての冷戦時代、核戦争といった大惨事を恐れた米国人は自宅の裏庭に核シェルターを作り始めた。こうした動きはサバイバリズム(生き残り主義)と呼ばれたが、その後数十年をへて「世界の終末」に備える人は物笑いの種となりがちだった。




カンザス州グラスコにある「サバイバル・コンド」はプールなどの娯楽施設を備える




卓球やボルダリングも楽しめる





だが今や、新型ウイルスのせいで通常の生活のあらゆる側面が混乱を来たし、ジョーさん夫妻のように日頃から非常事態に備える人々(時に「プレッパー」と呼ばれる)は安堵(あんど)すると同時に、誇らしさを感じる状況となっている。

高級地下シェルター、コロナ流行でも心配無用 米カンザス州グラスコにある高級地下シェルター住宅「サバイバル・コンド」の内部を紹介する。米軍の元ミサイル格納庫を転用したもので、養魚場や水耕栽培室から食糧を供給できるほか、3~5年分の缶詰を備蓄する。室内は快適にしつらえられ、プールやビリヤードなどの娯楽施設や医療センターもある。




救急処置ができる医療センター




地上のカメラで撮影した画像が窓の形のスクリーンに映し出される




主寝室





シェルターを製造販売するライジングSカンパニーやアトラス・サバイバル・シェルターズによると、トップニュースがコロナウイルス一色となったここ数週間、問い合わせや販売が急増しているという。ライジングSの場合、3週間ほど前から新規受注件数が倍増しているという。アトラスのロン・ハバード最高経営責任者(CEO)は過去1週間だけで2019年の年間と同額の取引があったと話す。

市場調査会社フリードニアグループによると、新型ウイルスをめぐる混乱とは別に、住居のセキュリティー支出は2011年の120億ドルから2019年には225億ドルに増えた。ここには通常のセキュリティー設備のほか、パニックルーム(緊急避難用の小部屋)や地下シェルターなどより強力な保護住宅施設が含まれる。

シェルターは欲しいが数百万ドルの費用を捻出できない向きには、サウスダコタ州南西部の山岳地帯ブラックヒルズにある元陸軍基地がいいかもしれない。

「ビボス・エックスポイント」と名づけられたこの開発地域には、宣伝によると575カ所のコンクリート製の要塞(ようさい)が敷設され、それぞれ生い茂る草の下に隠れている。開発を手がけたロバート・ビシノさんは「世界最大のサバイバル・コミュニティー」だと話す。同氏によると第2次世界大戦中に使われた武器弾薬や爆発物の格納庫を改造したという。






サバイバル・コンドには3~5年分の食糧が備蓄されている



イグルー(北極圏の先住民族イヌイットのドーム型住居)のような構造物1つの価格は3万5000ドル。ビシノさんによると、数週間前からビジネスは好調だという。
トムさん(69)と妻のメアリーさんは、究極の隔離性と安全性が最も気に入った点の一つだと話す。2人とも仕事を引退しつつあり、約3年前に購入したこのシェルターに移り住む計画だという。この夫妻も姓は明かさなかった。

トムさんは「プレッパー」であることを長年誇りにしてきた。パンデミックや悲惨な気候変動、戦争といった最悪のシナリオを想定する自分を、今まで横目でちらりと見るだけの人もいたが、ここに来てムードが変わったと話す。

「私たちが他の人々とそれほど大きく違うとは思わない。これまで人々はプレッパーを奇妙で頭のおかしな一群だと見なしていた」とトムさんは言う。「だが私の準備を疑わしく思っていた多くの人が、今や信じられないほど私のすることに興味を示している」




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